木ままニュースペーパー

軒の出は何センチ必要?60・90・120cmを方角と夏冬の日射で比較検証

2026.10.28

提示された軒の寸法に根拠はあるのか・方角と窓の高さ・夏冬の日射から敷地に合う軒の出を決める

軒の出の適切な寸法は、方角と窓の高さ、そして太陽高度で決まります。60cm・90cm・120cmでは、夏に遮れる日射も、冬に取り込める日だまりの量も明確に違います。設計図に書かれた数字をそのまま受け入れる前に、根拠を自分で確かめる方法があります。打ち合わせで「軒の出は910です」と言われ、その夜、検索窓に「軒 何センチ 必要」と打ち込む。数字を変えて何度も調べ直す。「90cmで夏は本当に暑くないのか」「120cmにしたら冬は暗くならないか」「そもそもこの数字は誰がどう決めたのか」。この記事は、岡山の緯度を前提に3つの寸法を日射の角度で比較し、敷地ごとに軒の出を判断する基準を整理しました。読み終えるころには、提示された数字の根拠を設計者に確認できる状態になっています。

【この記事のポイント】

  • 岡山の太陽高度は夏至約79度・冬至約32度。この差を使えば、軒の出ごとの影の届き方は自分で計算できる
  • 差が出るのは夏至ではなく残暑の9月。60cmと90cmの違いが最も表れる時期を見落とさない
  • 軒の出は寸法単体でなく「窓上端から軒先までの垂直距離」とセットで判断する。判断基準5つで他社案とも比較できる

この記事の結論

  • 軒の出に全敷地共通の正解はない。方角・窓高・周辺建物で決まる
  • 岡山(北緯34.7度前後)の南面なら、掃き出し窓に対して90cm前後が検討の出発点
  • 夏至はどの寸法でも影になる。比較すべきは9月中旬の太陽高度
  • 東西の窓は軒では守れない。縦格子や外付けシェードの領分
  • 120cmは日射遮蔽に強い一方、コスト増と建築面積算入の確認が必要
  • 断面図に夏冬の日射線を引いてもらい、根拠を図で確認してから決める

南向きの掃き出し窓で比較する、60cm・90cm・120cmの日射の入り方

夏至79度・冬至32度という前提をまず押さえる

総社市・岡山市・倉敷市はおおむね北緯34.7度。正午の太陽の高さは、夏至で約79度、冬至で約32度です。夏はほぼ真上から、冬は斜め横から日が差す。この角度差があるから、南面では水平に突き出した軒が「夏は遮り、冬は通す」装置として働きます。逆に言えば、軒の効果は角度計算で確認できるということ。感覚の話ではありません。実は、深い軒そのものは新しい発想ではなく、日本家屋が昔から使ってきた日射調整の装置です。ただし昔の家の寸法をそのまま写しても、今の窓の高さや断熱性能には合いません。緯度と窓に合わせて引き直す必要があります。建築基準法は1950年の制定以来、構造や採光の規定は細かく定めてきましたが、軒の長さの正解はどこにも書かれていません。だからこそ、敷地ごとに計算して決める部分なのです。

影はどこまで届くか、3つの寸法を数字で比べる

影の下端は「軒の出×太陽高度の正接」でおおよそ計算できます。夏至の正午なら、60cmの軒で軒先から約3m下まで、90cmで約4.5m、120cmで約6m。高さ2.2mの掃き出し窓なら、実はどの寸法でも窓全体が影に入ります。一方、冬至は逆で、60cmの影は約37cm、90cmで約56cm、120cmでも約75cmしか下がりません。窓上端が軒先より30〜40cm下にあれば、冬の日はどの寸法でも室内の奥まで届きます。つまり「夏至と冬至だけ」を見ると、3つの寸法に大差はない。ここが落とし穴です。カタログの比較表が夏至と冬至の2条件だけで書かれていたら、よくあるのが「どれでも大丈夫そうに見える」という誤読。判断の物差しが足りていないだけです。

見落とされがちなのは残暑の9月

差がつくのは中間期です。9月中旬の正午の太陽高度は55〜60度前後。このとき60cmの軒がつくる影は約90cm〜1m、90cmなら約1.4m、120cmなら約1.8mです。高さ2.2mの窓に対して、60cmでは半分近くに日が差し込む計算になる。岡山の9月は30度超えの日が珍しくありません。実際、2024年秋に総社市で平屋を計画した30代のご夫婦(3歳と5歳のお子さん)は、提示された90cmという数字に「これは標準だから、ですよね?」と率直に聞いてこられました。断面図に夏至・冬至・9月15日の3本の日射線を引いて確認したところ、南の掃き出し窓の上端から軒先までの垂直距離を40cmに詰め、軒の出は105cmに変更。ご主人は「線を3本引いただけでこんなに納得感が変わるとは」と少し悔しそうでした。引き渡し後の8月、奥様から「午後2時でも床に日差しの線が届いていないことに、ふと気づいた」と連絡をいただいています。

寸法の根拠を敷地で確かめる、方角・窓高・雨・使い方の判断基準

提示された寸法の根拠を確認する5つの判断基準

どの会社の設計案にも使える基準を挙げます。①窓上端から軒先までの垂直距離が示されているか(近いほど短い軒でも効く)。②夏至だけでなく9月の太陽高度で影を検討しているか。③冬至に窓のどこまで日が入るか、断面図で説明できるか。④雨がかりへの配慮(90cm前後から外壁や窓枠の濡れ方が目に見えて変わる)。⑤軒下を通路として使うのか、椅子を置いて過ごすのか、使い方まで想定しているか。正直なところ、寸法の数字そのものより、この5つに図で答えられるかどうかで設計の解像度が分かります。1社の説明だけで即決せず、同じ敷地条件で2〜3社に断面図を出してもらい比較するのがおすすめです。設計案の軒の寸法に日射の説明が付いていなかったなら、確認するなら今。着工後に軒を伸ばすことはほぼできませんが、図面段階なら変更できます。方位の分かる敷地資料を持って相談していただければ、その場で日射線を引いてお見せします(https://www.kimama218.jp/soudan/)。

東西の窓と隣家の影は、軒では解決しない

朝夕の太陽は高度20〜30度で横から差します。西の窓に150cmの軒を付けても、西日はその下をくぐって入ってくる。2023年7月に倉敷市から相談に来られた40代のご夫婦は、前の住まいで西日に悩み「夏は夕方ずっとカーテンを閉めて暮らしていた」そうです。当初は西に大きな窓と深い軒を希望されましたが、日射図を見て方針転換。西は小さく高い位置の窓にし、南を深い軒の大開口にしました。スタッフの言葉を借りれば「軒は南で効かせて、西は縦格子や外付けシェード、落葉樹で守るのが基本」です。また、南側に2階建てが迫る敷地では、冬の低い日射がそもそも隣家に遮られるケースがあります。ケースによりますが、この場合は軒を短くして明るさを優先する判断もあり得ます。深い軒ありきではなく、敷地の日射図が先です。

コストと建築面積、雨の日の使い勝手まで含めて決める

軒を90cmから120cmに伸ばすと、屋根面積と垂木の跳ね出しが増え、構造の補強も必要になります。日銀の地域経済報告でも資材価格の高騰と建築コスト増が指摘されており、30cmの延長でも数十万円規模の差になることがあります。さらに軒の出が1mを超えると、先端から1m引いた残りの部分が建築面積に算入され、建ぺい率が厳しい敷地では計画に影響します。一方で得るものも具体的です。90cmあれば小雨の日に窓を開けたまま過ごせて、120cm超なら軒下に椅子を置き、タイルデッキや土間と合わせて半屋外の居場所になります。最初は「軒にそこまで払う価値があるのか」と半信半疑だった施主さんが、梅雨どきに窓を開けて雨音を聞きながら夕食をとるようになった、という変化は珍しくありません。費用と面積と使い方。三つを並べて初めて、寸法の妥当性を判断できます。なお、軒は断熱性能の代わりにはなりません。断熱・気密・窓性能を確保したうえで、日射を調整する最後の一手として軒を効かせる。順番を間違えないことも大切です。

よくある質問

Q1. 軒の出の一般的な標準寸法は?

A1. 木造では91cm(3尺)が最も多く、次いで60cm・45cmです。ただし標準=敷地に合うではなく、窓高と方位の確認が前提です。

Q2. 60cmでは短すぎますか?

A2. 高さ2.2mの南の掃き出し窓には、9月の高度57度前後で半分近く日が入るため不足しがちです。腰窓や高窓なら60cmで足りる場合もあります。

Q3. 120cmのデメリットは?

A3. 冬の日射をやや削る、跳ね出し補強でコスト増、1m超の部分は建築面積に算入の3点です。建ぺい率に余裕のない敷地では特に要確認です。

Q4. 西日は軒で防げますか?

A4. ほぼ防げません。夕方の太陽高度は20〜30度で、水平の軒の下をくぐります。縦格子・外付けシェード・落葉樹が有効です。

Q5. 軒を深くすると室内は暗くなりませんか?

A5. 冬の直射は高度約32度で入るため、南面では思うほど暗くなりません。曇天時の明るさは軒より窓面積と天井・壁の反射の影響が大きいです。

Q6. 平屋と2階建てで軒の考え方は違いますか?

A6. 違います。平屋は窓と軒の距離が近く、同じ90cmでも遮蔽効果が高い。2階窓は軒まで遠く、庇を窓ごとに付ける方が効きます。

Q7. 軒の出は後から変更できますか?

A7. 着工後はほぼ不可能です。実施設計までが判断の期限で、確認申請後の変更は再申請や費用が発生します。図面段階での比較が結論です。

Q8. 日射のシミュレーションは頼めば見せてもらえますか?

A8. 多くの設計者は依頼すれば断面図に日射線を引けます。夏至・冬至・9月の3条件を指定するのが比較のコツ。断られた場合は判断材料が1つ減ると考えてください。

まとめ

この記事のまとめ:要点3つ

  • 岡山の太陽高度(夏至約79度・冬至約32度)を使えば、60cm・90cm・120cmの影の届き方は計算で比較できる。差が出るのは残暑の9月
  • 寸法単体でなく、窓上端から軒先までの垂直距離・方位・雨がかり・軒下の使い方・コストの5基準で判断する。東西の窓は軒以外の手段で守る
  • 着工後の変更はほぼ不可能。断面図に夏冬の日射線を引いてもらい、根拠を図で確認してから決める

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